ヘルムート・ヴァルヒャ「バッハ・オルガン作品全集」|週末音楽。
J.S.バッハ(Johann Sebastian Bach,)は、クラシックに興味がないとしても、音楽の授業で名前くらいは聞いたことがあるだろう。
作曲家としてはもちろん、「和声法」など音楽理論の基礎を築き上げた「音楽の父」としても知られる、音楽史上最も重要な人物の一人だ。
生涯で様々な楽曲を世に送り出したバッハ。中でも、パイプオルガンのために作られた楽曲は、多くの支持を集める。
パイプオルガンの音は壮大かつ荘厳である。「パイプオルガン=教会」という、ステレオタイプなイメージに起因するのかもしれないが、その音は間違いなく、強く人を惹きつける。
オルガニストの一人、ヘルムート・ヴァルヒャ(Helmut Walcha,)は、そのバッハ楽曲の演奏で特に有名な音楽家だ。幼いころの予防注射の後遺症により、極度に視力が弱くなっており、楽譜全体を見渡すことはできなかった。そこで、楽譜を分割して覚え、記憶の中で一つにまとめ、演奏していたという。
後に音楽院に進むが、16歳の時に失明。しかしその後、17歳でコンサートデビューし、19歳の時には教会の副オルガニストに就任。
演奏家としてのキャリアを着実に積み重ねていく。失明後は母、結婚後は妻のサポートを受けながら、演奏レパートリーを増やしていった。
そんなヴァルヒャの演奏は、良い意味で「人間的感情」が存在しないかのような印象を受ける。各旋律をはっきりと際立たせた、非常に厳格な演奏なのだ。それゆえ、バッハの作品が持つ、緻密かつ流麗な美しさ、曲そのものに込められたストーリーを、最大限引き出すことに成功している。
「盲目のオルガニスト」という情報は、鑑賞の際は全く無意味で(実際、同情的評価を避けるために盲目であることを隠していた時期がある)、ただただ、その演奏に没入してしまう。
ヴァルヒャが残した「バッハ・オルガン作品全集」は、バッハのオルガン作品を網羅した、贅沢なアルバムだ。少々値は張るが、それだけの価値がある。
鑑賞の際は、出来れば1人、静かな部屋で、じっくりと音と曲のストーリーを味わいながら聴いてほしい。
Astray Goods Life ライター。ノイズ系の楽曲制作が趣味。常に男メシを求めるグルメ。