河口知明の肥後象がん|人生の相棒
熊本県の伝統工芸品の代表「肥後象がん」。地鉄に金銀をはめ込み、桜や波といった細かい模様を施す、重厚感と上品さが共存する一品だ。約400年前の江戸時代初期、鉄砲鍛冶が鉄砲の銃身や刀剣の鐔(つば)に装飾として施したのが始まりだといわれている。
肥後象がん師・河口知明さん(72)は、人間国宝の肥後象がん師・米光太平氏(1888~1980)に師事し、技を継承する人物だ。母親から「手に職を付けた方が良いのでは」と勧められ、もともと手先が器用だったこともあり、15歳にして肥後象がんの世界に飛び込んだ。
「石の上にも三年」。その3年を過ぎたころ、「自分に合う仕事なのかもしれない」と感じ始めた。8年間の修行を経て、23歳で独立。以来、肥後象がん一筋でこれまでの人生を歩んできた。
河口さんは、作品の下絵を描くことから始める。日常の中の、見るもの、感じるものから、作品のアイデアが浮かぶのだ。常に遊び心とチャレンジ精神を忘れない、創造力に富む河口さんの作品は、形や模様、用途、技法もさまざまだ。現代人のライフスタイルに寄り添い、場合によってはキャラクターすら施す。先人の技術を守りながら、新しい作品を生み出している。
一般的な肥後象がんは、まず、鉄地に鏨(タガネ)で布目を切る。そして、その布目に金や銀を乗せ、鹿の角で打ち込んでいく。鉄地に残った余分な布目を消したり、錆出しをしてお茶に含まれるタンニンで鉄の酸化を防止する「錆止め」など、14通りもの工程を経て作品を作り上げる。
作品制作以外にも、修復の依頼を受けることもあるという。「昔の作品から技術や作風を知ることができるのは、とても面白い」と話す河口さん。昔の作品を修復することで、技術が身につくという。こうしてできる河口さんの肥後象がんの作品の数々は、まさに探究心の賜物だ。
作品制作や修繕以外にも、後進の育成に力を注いでいる河口さん。これまでに6人の弟子をとり、うち4人は独立したという。また、熊本県伝統工芸館でも月2回、市民を対象に、肥後象がん講座を開いている。
「『これでいい』と思ってしまえば、それまで。作品をもっと良くできないか、追究していくことが、自身の向上に繋がる。作品を作り続けることに終わりはない」
河口さんの肥後象がん作品は、県伝統工芸館の工芸ショップ匠(住所:熊本市中央区千葉城町3-35、TEL:096-324-5133)でも購入できる。また、河口さんの工房(住所:熊本市西区池田4-12-9、TEL:096-324-3326)でも、作品の制作依頼を受けている。
Astray Goods Life ライター。舞浜の「夢の国」をこよなく愛す乙女。仕事終わりにインコと遊ぶことが楽しみ。