本質は古典にあり 現役アカペラ―が語る音楽の魅力とは|上野恵大/23歳
熊本大学の北キャンパスにある文化系サークル棟。この建物の一部屋が、アカペラサークルHigo-Pella(ヒゴペラ)の部室だ。ここから聞こえてくる歌声の持ち主が、熊本大学の院生・上野恵大(23歳)。サークル活動だけではなく、楽譜づくりや「歌い方研究」など、日頃から音楽に囲まれた生活を送る上野。彼の醸し出す「音楽好き」というオーラは、普段サークル活動を通してでしか関わりがなくとも周囲の人々に強烈に伝わる。上野の思うアカペラの魅力や、音楽の可能性とは。
●3歳で耳コピ
上野が音楽と出逢い、魅力を感じ始めたのはいつからなのか。彼自身、はっきりとしたことは分かっていないらしい。なんでも、物心つく頃には気づいたら楽器を触っていたという。初めて触った楽器はエレクトーン。2、3歳の頃にはCMで流れる曲を「耳コピ」で弾いていたそうだから驚きだ。
5歳の時、本格的にエレクトーンを習い始めた。先生に教わり始めるまでは、「教室に通っている子なんかに負けたくない」という気持ちでがむしゃらに練習していた。根っからの負けず嫌いだったのだ。
エレクトーンを習い始めてから1年が経とうとする頃には、ピアノも習い始めた。ここから上野は音楽にのめりこんでいく。小さい頃から音楽に触れ続けてきて、今日まで音楽と共に生きている。もはや音楽とは、切っても切れない関係。音楽の中に自分が棲みついている。いや、むしろ共生していると上野は語る。
上野が次に没頭したのがアカペラだった。きっかけは好きだったテレビ番組。参加者がアカペラの歌唱力などを競い合う人気バラエティー番組を見て、魅力に惚れ込んだ。大学でアカペラサークルに入部。日々腕を磨いた。
いつでもどこでも、彼の生活は音楽とともにあった。そんな彼を襲ったのが2016年4月に起きた、熊本地震だった。地震の影響で大学はしばらく閉鎖。サークル活動はおろかサークル活動もしばらくできなくなった。それでもアカペラメンバーと集まれる場所を探し、時間をつくり、歌を歌った。音楽ができる喜び、仲間と歌える喜びを再確認した。アカペラにおいて練習のブランクはご法度。無理をしてでも定期的に練習した。
●アカペラは嘘がつけない
アカペラの特徴は、何といっても「人の声が楽器である」ことだ。楽器自体がすべてオリジナルともいえる。人の声という素晴らしい、唯一無二の楽器の良さをもっとも生かせるのがアカペラなのだ。
息を吸う音。息継ぎのタイミング。声の震え具合。音の明るさ。外した音もすべてお客さんに伝わる。一切ごまかしがきかない。だから音楽に正直に向き合う必要がある。一瞬一瞬が本当に真剣勝負なのだ。
アカペラは、個々の能力よりもチームプレーが求められる。一人一人の力をみんなで繋いでいくチーム力が、強さに繋がると上野は語る。リード、コーラス、ベース、ボイスパーカッション。個々のレベルが高いだけでは、観客の心には響かない。むしろただの自己満足になってしまう。
お互いの信頼、そして阿吽の呼吸。これらが技術よりも重要なのだという。メンバーの歌い方の癖を知り尽くしたメンバーで構成されたチームが、最強なのだ。ここに、アカペラの面白さがある。
●音楽の本質は古典にあり
高校の頃、古典の授業が好きだった。音楽の可能性を語る上で、古典の存在は欠かせない、と上野は言う。古典の登場人物は、何か楽しいこと悲しいことがあると、すぐ歌を詠み始める。そうやって喜びや嘆きを表現していた。その行動にこそ音楽の本質がある。
言葉だけでは足りない、どうにかして自分の気持ちを伝えたい。そう思った時に音楽が生まれるのだ。音楽は水や空気のように、なければ生きていけないわけではない。しかしながら、人生を豊かにしてくれる。それに、コミュニケーションツールとしても重要なものだ。
人と人が繋がれることが音楽の力であり、最大の魅力。上野はそう感じている。
●「音楽は無限大だから」
現在、県内外問わず様々なイベントでピアノ演奏やアカペラステージを行うほか、他大学のアカペラーたちに依頼を受けて楽譜提供をしたりしている上野。これから彼は何を目標に音楽に向き合っていくのか。
「音楽にいつまでもかかわっていたい。だからといって音楽関係の仕事に就きたいというわけでは全くない。アカペラ以外にも、色々なかたちの音楽に触れ、チャレンジし続ける精神をもっていたい。音楽は無限大だから」
常に音楽が中心にある上野の人生。取材の最後に語ってくれた「止まらずどんどん進んでいきたい」というコメントは、本心であろう。彼は真摯に音楽に向き合い続けることをやめず、これからも音楽と共に生きていく。
▼上野恵大(うえの・けいた)
熊本大理学部卒。熊本大自然科学教育学部理学専攻数学コース所属。幼少の頃よりエレクトーンなどの楽器を演奏。大学時代にアカペラサークルに入部し、以来一貫してアカペラと向き合う。
Astray Goods Life の編集部。「寄り道」大好きなメンバーが大集合。