栗川商店の来民うちわ|人生の相棒
熊本県の北部、山鹿灯篭で知られる山鹿市の来民(くたみ)地区。道路を挟み、店が並ぶ商店街沿いに、栗川商店がある。創業明治22年の栗川商店は、「来民うちわ」を代々製造。「渋うちわ」とも呼ばれる来民うちわを作るのが、4代目の栗川亮一さん(58)だ。京都の「京うちわ」、丸亀の「丸亀うちわ」とともに、うちわの「三大生産地」とされてきた来民地区で、伝統を守り続けている。
慶長5年(1600年)、四国・丸亀の僧が、一宿の御礼として、うちわの作り方を伝授したのが、来民うちわの始まりだとされている。肥後初代藩主・細川忠利の奨励により、来民の地で盛んに作られるようになった。
「渋うちわ」の名の通り、最大の特徴は、柿渋を用いている点だ。地元で採れるマメガキの実が、ピンポン玉くらいの青い頃に採取し、果実を粉砕。圧搾して得られた汁液を発酵し、熟成させた液体が柿渋だ。
栗川商店では、5年の年月をかけて熟成された柿渋を、うちわに塗る。決して、2度塗りはしない。柿のタンニンの作用を利用することで、和紙を丈夫にし、長持ちさせ、また、防虫効果を発揮するという。
栗川さんにどのくらい持つのかと尋ねてみると、昭和4(1929)年に作られた来民うちわを見せてくれた。恐る恐る触ってみると、骨も和紙も丈夫で、問題なく仰ぐことができる。柿渋の茶色が濃く、見た目にも魅力的だ。
来民うちわは、現代のうちわとは異なり、やや四角い形状のものが多い。肥後藩主細川家の時代に、四角いうちわの上に書物を乗せて読めるようにと、この形が誕生したのだと言い伝えられている。
地元産の4年ものの真竹を骨組みとして使い、和紙を貼る。竹は寸法をはかり、ノコギリで切る。骨組みした真竹は、竹の中に住み着いている虫や虫の卵を殺すため、熱湯にかけ、煮沸する。デンプン糊で和紙を貼り、染料、うるし、仕上げに柿渋を塗り重ねていく。すべて自然由来の素材で作られている。
栗川さんの母親は以前、脳梗塞で倒れ、体が少々動きにくくなった。試しに柿渋塗りの作業を任せてみたところ、次第に体が動くようになり、旅行に出掛けるほど元気を取り戻したという。これがきっかけとなり、栗川さんは2014年、ハンディのある人々を受け入れるNPO法人「伝承塾」を立ち上げた。現在7名の人々が、来民うちわの制作工程に携わっている。熊本県八代市の特産・い草とうちわを組み合わせたアイテムも、今では、伝承塾のスタッフらが制作しているという。
「来民」は「民が来る」と読めることなどから、贈答品や記念品向けの縁起物としても扱われるようになった。栗川さんはその一つとして「命名うちわ」を発案。子どもの名前をうちわに仕立てる命名うちわは、丈夫で長持ちすることから、幅広い層から支持されている。
「来民うちわを買ってくれた人やもらった人をいかに喜ばせるか、感動させるかが大事だ」と話す栗川さん。常に人のことを思い、心を込めて、来民うちわの制作にあたっているという。伝統を守るだけでなく、時代に合わせたデザインとオリジナリティを重視し、価値をどう付けるかを常に意識している。
「来民うちわは、昔の人々の知恵と工夫が詰まっている。次世代にも繋いでいきたい」
栗川さんらが作るの来民うちわは、栗川商店(住所:熊本県山鹿市鹿本町来民1648、TEL:0968-46-2051)で購入することができる。また、熊本県伝統工芸館の工芸ショップ匠(住所:熊本市中央区千葉城町3-35、TEL:096-324-5133)でも購入することができるそうだ。
Astray Goods Life ライター。舞浜の「夢の国」をこよなく愛す乙女。仕事終わりにインコと遊ぶことが楽しみ。