前小路ワークスのセイルトート|人生の相棒
山口市中心部から車を東へ走らせること40分。幹線道路から入った小道を進むと、「前小路ワークス」の看板が見えてくる。

前小路ワークスの看板
「こんにちは」。工房に入ると、タンクトップ姿で店主の清水博文さん(61歳)が出迎えてくれた。
店内を見渡せば、バックパッキングやネイティブ・アメリカンなど、多彩なジャンルの本が並ぶ書棚が目に入る。「たくさん本が置いてあるんですね」と口にすると、「これはいわゆるマイクロライブラリー。知り合いがよく本を借りていくよ」と笑顔。

工房内の書棚。リトルライブラリーだという
財布、名刺入れ、バッグ。壁には清水さんが製作した革製品が並ぶ。

工房の一角には色とりどりの革が置かれていた
よく見ると、棚は固定されておらず、登山用のザイルの結び目で、一段一段支えられている。窓の木製ブラインドは、通常のものと縦横が逆だ。いずれも、清水さんが考案したものだという。

登山用ザイルを活用した陳列棚

お手製の木製ブラインドは縦横が通常のものとは逆
かつては、アウトドアブランド「ザ・ノースフェイス」とスイスの時計ブランド「オメガ」の広告部署で働いていたという清水さん。過去の広告の数々を見せてもらったが、写真家・石川直樹氏をはじめビッグネームが並ぶ。

清水さんが企画したピューリッツアー賞詩人・ゲーリー・スナイダーのCD
当時の仕事は自由度が高く、例えばオメガ時代は、なんとピューリッツアー賞詩人・ゲーリー・スナイダーのCDも企画したという。仕事にはやりがいを感じていたが、母の介護のため、離職。生まれ育った土地にUターンし、今の工房を立ち上げた。

セイルトートに使用するヨット用ハイテクセイル
この店の一押しは、使わなくなったヨットのセイルを用いたバッグ。本来は捨てられるものだが、ヨットレースに携わり、かつ環境問題にも関心のある清水さんが、その色使いや強度に魅力を感じ、製品化を思いついた。

セイルトートは全て一点物のため、柄が一つ一つ異なる
ケブラーやカーボンを用いたセイルは、頑丈かつ軽量。使う部位によって、柄が異なる、完全な一点モノだ。持ち手はカラフルで耐久性にも優れたパラコード(パラシュートに使用されているナイロン製の紐)を使用している。

セイルトートの持ち手にはパラコードが使用されている
使わない時は、壁にかけておくのも収まりがよい。市中心部の店に飾ってあるのを見かけたが、アート作品のようだった(このとき偶然見かけたことが取材のきっかけとなった)。

座間味から那覇へ向かうボートの上で、笑顔を見せる清水さん。12年前、写真家・石川直樹氏に撮影してもらった
ストーリーにデザイン、そして清水さんの気さくな人柄。全て含めて一つの作品なのだ。
価格はMサイズ1万6000円、Sサイズ1万円(いずれも税込み)。
問い合わせは、前小路ワークス(090−4136−2679、山口市徳地小古祖349)https://www.maekoji.com/
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こだわり抜かれている、一生使えるなど、「人生の相棒」となりうるプロダクトを紹介する企画。職人の魂に、触れる。

Astray Goods Life のライター・編集者。Astray Goods Japan 代表。高校講師、新聞記者を経て独立。趣味は民族楽器とランニング。