オープンスタジオのほうき|人生の相棒
熊本市中央区本荘町。このエリアに、蔦(つた)に覆われ、独特の存在感を放つ建物がある。紙や金属、ガラスなどのクラフト作品を扱うギャラリー兼工房「オープンスタジオ(OPEN STUDIO)」だ。
建物内に一歩足を踏み入れると、ずらりと壁に並んだほうきが目に飛び込んでくる。小さいもので長さ20cm、大きいもので1mというほうきの数々は、形や色合いが一点一点異なる。よく見ると、アイスホッケー、テニスラケット、ゴルフ、スキー、ギター、三味線、ジュースの空き缶などが、ほうきの柄に組み合わせてある。
「捨ててしまうのはもったいない。自分の手で新たな形で生かそう」との思いから誕生したのだという。アイスホッケーやテニスラケットなどは「スポーツシリーズ」。ギター、三味線などは「音楽シリーズ」など、どんどんシリーズが増えていき、ついには「思い出の品で作ってほしい」との依頼も入るようになった。ユニークなアイテムの数々は、生活の中に彩りをもたらしてくれる。
オーナーの高光俊信さん(71)は、九州産業大学芸術デザイン科(福岡市)で紙の造形を学んだ。その後、専門学校の非常勤講師などの職を経て、ガラス技術を学ぶため渡英。その後は米国などにも足を運ぶなどし、鉄、ほうきなどクラフト技術を身につけた。
ほうきを作リ始めたきっかけは、鉄製の薪ストーブを製作した際、灰の処理や掃除用に必要性を感じたため。米国の工芸学校に通い、1週間で米国式のほうきの技術を習得したそうだ。それからは、俊信さんが日常生活の中で必要だと感じたアイデアを、デザインに落とし込んでいった。
例えば、消しゴムの消しカスやパンくずが出たときに、手軽に使える小さなほうき。お客さんの要望から誕生したという、パソコンのキーボードを掃くためのほうき。おろし金の穴に詰まった野菜の残りカスを取るためのほうきは、特に人気を集めている。高光さんのほうきは、壁にかければインテリアの一部としても様になる。
高光さんは、「ものづくり」のデザイナーとして歩んできた。固有のプロダクトにこだわるのではなく、さまざまなものを組み合わせ、人間にとって何かしらプラスになるものを生み出すとのポリシーで創作活動にあたっている。したがって、日常生活で感じるすべてのことが、高光さんにとってものづくりのヒントとなるのだ。
「ものづくりは生き様だ」と語る高光さんのほうき。インテリアのスパイスとして、共同生活者として、部屋に一本置いておきたい逸品だ。
今回紹介したほうきは「オープンスタジオ」(住所:熊本市中央区本荘町672-2、TEL:096-366-5964)、または熊本県伝統工芸館内の「工芸ショップ匠」(住所:熊本市中央区千葉城町3-35、TEL:096-324-5133)で購入することができる。
Astray Goods Life ライター。舞浜の「夢の国」をこよなく愛す乙女。仕事終わりにインコと遊ぶことが楽しみ。